リスニングの練習をするのにどんなヘッドホン・イヤホンが最適なのか気になる人は意外に多いみたいですね。でも私が「リスニングの練習に合ったヘッドホンは?」と質問されたら、この質問への答えとしては少しヘンなのを承知でこう答えます。
「ヘッドホンはしない方がいいよ」
音楽も映画も大好きな私は、ヘッドホンというモノ自体は大好きなんです。お金に余裕があれば超高いやつをコレクションしたいくらいの。でも、語学のリスニングにヘッドホンは使いません。それは、今回お話しする一件があったからです。この記事は、現在リスニング力に伸び悩みを感じている人にとってはヒントになるかもしれません。
ちょっと英語ができるようになってきた頃。英検準1級に合格したあたりでしょうかね、リスニング力アップのためにあらゆるアイデアを片っ端から試した時期がありました。その中に、耳栓を使うというものがありました。
それまでの私はリスニングの練習をするときは必ずヘッドホンをしていました。あなたもイヤホン・ヘッドホンでリスニング教材を聴いているかもしれません。おそらく大多数の人はよく聞こえるようにと意図的にヘッドホンでのリスニングをしているんじゃないでしょうか。私も長いことその一人でした。その方がよく聴こえるからそれが良いと信じて疑わなかったのです。
そんなある日、私はふと気付くんです。
ヘッドホンを外して聴くとうまく聴き取れないことがある。
初めは、生活音・雑音のためだと思ったので、やっぱりヘッドホンしないとだめだなと感じました。でも、そこまで生活音がしないはずの試験の現場でも同様のことが起こってしまった。
あなたも、同じ経験ありませんか?
ヘッドホンをしてリスニングの勉強をしている時は聴き取れるけれど、いざ試験の会場では聴き取れない。会話となると聴き取れない。
私は考えました。良く聞こえるためにヘッドホンをして練習していたけれど、日常生活で言葉を聴き取る時は、耳元ではない。雑音も騒音もある。騒がしい場所でも会話する。雑音のしない静かな環境で会話をすることの方が珍しい。離れた位置で会話することも多い。それが普通だ。
そして母語である日本語ではそれが当たり前のようにできている。
あれ?ってことはもしかして、英語を同じように使いたかったら、それを想定してそれができるように練習しなくてはダメじゃないの?
そう考えて方法を模索していたとき、突飛な方法が好きな私はひらめいてしまいました。
そうだ耳栓をしてリスニングの練習をしよう!
あなたが耳栓を使う機会が多い人ならお分かりかと思いますが、耳栓は完全に音をシャットアウトするものではありません。耳栓をしても相手がしゃべっていることは聴こえます。日本語では。
片や、英語だとお手上げでした。英語でも同じことをができるまでやろう、かくしてこの極端とも言える耳栓トレーニングが始まったのです。
最初はほんとにストレスがたまる。でも、面白いもので、やっているうちに段々とクリアに聴き取れるようになってくるんですね。人間の脳の適応能力には本当に驚かされます。
おそらく英語の特有の、「聴き取れないなにか」を練習を重ねることによって聴き取れるようになっていったのでしょう。これを「英語特有の周波数云々」と書くと、”英語の周波数論争”に巻き込まれてしまうので(※肯定派と否定派がなぜか激しくバトルしているテーマです。たぶんこれもそのうち記事にします)あいまいな書き方をしますけど。日本語でできて英語でできない、ヘッドホンをつければできるのに、ってことはやはり、普通の状態では日本語と同等には聴き取れない何かがあることは事実ですからね。
上でお話ししたトレーニングで耳栓をした状態で聴き取れるようになってきたら、耳栓を外し(もちろんヘッドホンなし)、少し離れた所でリスニング音声を流して聴き取りの練習をする。私の場合は、隣の部屋にプレーヤーを置き再生して練習をしていました。その後は、それをさらにボリュームを下げた状態で練習する。徐々に慣れていくと、やがて日本語と同じように、離れていても雑音混じりの場所でも英語の聴き取りがラクにできるようになりました。
つまり、目論見通り、試験の会場で、たとえ隣の人が多少音を立てていてもイライラせずにリスニングパートを解けるし、雑踏の中での英会話も聴き返すことなくスムーズに行なえるようになったんですね。
順序が逆の方がいいんじゃないの?と思う人もいるかもしれません。つまり、はじめのうちは離れた部屋でリスニング音声を再生する。それに慣れたら耳栓をする。こういう流れ。私は、そうじゃない方ががだんぜん力になると思います。最初に負荷をかける、いわゆる「高地トレーニング」ってやつですね。最初にキツイのをやっておくと、そのあとがラクになります。これもその理屈です。
最近、部屋の片づけをしていたら、英語学習法を特集した「PRESIDENT」誌(2015・9・14号)が出てきてました。それを捲っていたら、「点数がみるみる上がる『ヤバい裏技』24」なる、TOEIC満点を誇る講師達がTOEICのトレーニング法を紹介するコーナーがありました。そして、そのうちの一つに「音が悪い安物のラジカセを買う」というアイデアがあるじゃないですか。発想はまさに私がやっていた耳栓トレーニングと一緒でした。少し引用してみますね。
リスニングは、あえて聞き取りにくい状況を作って練習しておこう。
(中略)家で勉強をするときは、窓を開けて外の雑音が聞こえるようするといい
ヘッドフォンでなくスピーカーで聞く練習をする。安くて音質の悪いものをTOEICように用意したい
突飛な方法過ぎて人に教えるのは躊躇していましたが、これで自信を持っておすすめすることができます。
ただ、誤解しないで欲しいのは、リスニングの練習に耳栓を使うことを勧めるのがこの記事の趣旨ではないですからね。要は、このアイデアの本質は、普段どんな状態で会話していますか?その状態で聴き取れるように練習しないと意味ないよね、ということ。もうひとつは、そのためにはヘッドホンはしない方が良いよ、ということです。
そして今回の記事を通してお伝えしたいことは、一般的とされている練習法でも、効果が出ないときは疑ってみること、発想を転換して試行錯誤してみることででブレイクスルーが訪れることがあること、その練習法は、英語を実際に使う時の状況と同じか確認するのが大事であること、こういうことです。
リスニングについては今後も色々な切り口で記事を書いていきたいなと考えていますが、リスニング力が伸びない原因って、複合的な要因が絡み合っているケースが非常に多いので、今回のトレーニングだけで解決する場合だけとはもちろん限りません。
でも、ある程度のレベルには達していて、単語のレベルも自分のレベルに合っている。スピードも、文法も大丈夫、英語の発音やリンキングにも慣れているはず、緊張しているわけでもない、なのになぜか試験会場や街の中での会話となると聴き取りがうまくできないという悩みを抱えているのであればそれはきっとこの記事でお話しした私と同じケースだと思いますから、騙されたと思って一度このトレーニングを一定期間試してみてください。どうしても騙されたくない人は、せめてヘッドホンを外してみましょう。